先輩漁師の声

先輩漁師の声

やまがた漁業START

人との“絆”に支えられ、
一人前の漁師を目指して

酒田市 研修生(一本釣り・はえ縄) 志田 圭さん

志田さん

山形県の北西部、最上川の河口に位置する酒田市。豊かな自然環境に恵まれた酒田市は、米をはじめとするさまざまな農作物が収穫されるだけでなく、日本海の海の幸が水揚げされる港町でもあります。今回は、漁業への就業を目指し酒田市に移住された志田圭さんに、移住の経緯や現在の暮らし、今後の目標についてお話をうかがいました。

釣りへの情熱が高じ漁師の道へ!
移住の決め手となった“出会い”とは

「漁師というと、先祖代々漁師で子どもの頃から釣りをしてきたという方が多いですが、私が釣りを始めたのは10年ほど前。地元・宮城の貞山堀で釣りをしていた友人に差し入れを届けた際、一時的にお手伝いで持っていた釣り竿がググッと反応し、ハゼが釣れたんです。そのとき、「何て面白いんだろう!」と、稲妻が走るような衝撃を受けて(笑)。そこから、すっかりはまってしまいました」

釣りとの運命的な出会いを、笑顔で語る志田さん。翌日には釣り道具一式を買いに店に走り、以降、忙しい仕事の休みを見つけては釣りに明け暮れていたのだとか。そんな志田さんが、漁師を目指して酒田市に移住する決め手となったのは、現在の「師匠」との出会いと研修制度の存在だったといいます。

「楽しいという一心で釣りを続けていたのですが、いつしか釣りへの想いが趣味としての『好き』を超え始めていました。趣味で釣りをするのと漁師さんが毎日釣りをするのとでは、当然、力量に差がでます。仕事の間の休日に釣りをする中で、『明日はきっと釣れるのに』と悔しく思うこともありました。

そんな暮らしをしていたある日、現在の私の『師匠』である漁師さんに出会い、寒ブリ漁に連れていってもらったんです。その時に、再び稲妻が走って(笑)。『漁師さんってかっこいいな!』という気持ちが強まり、自分も漁師として生きていきたいと思ったんです。

研修制度の存在も、移住の大きな後押しになりました。漁師という仕事は参入のハードルが高いイメージがありましたが、研修で一年間勉強させていただいて、独立を目指せる。誰でも挑戦できると聞いて、ぜひ頑張ってみたいと思いました」

志田さん
周りの方のサポートのおかげで、女性であることが漁業独立を目指すハードルになることはないと笑顔で語っていました

現在、研修期間の7カ月目を迎える志田さん。研修ではマグロのはえ縄漁や一本釣りなどのさまざまな漁を経験するほか、風や潮を読んでポイントに行くための操船、漁で使用する仕掛けづくりなど、幅広い内容を学び独り立ちを目指していきます。

「漁では、絶対に魚を釣るのだ、という覚悟が求められますね。釣らなくては暮らしていけない。その点が趣味とは違うところです。だから、どこで何が釣れるのか、どうすれば釣れるのか、それまでの10倍くらい考えるようになりました。でも、どんなに困難な状況でも、魚にまつわることは、1ミリも辛いと感じない(笑)。『今日はどんな魚に会えるんだろう』と思って、毎日がドキドキの連続です」

漁師は世界で一番かっこいい。
師匠との絆に支えられ、大海に挑む

師匠の佐藤さん
師匠こと佐藤さんは酒田で漁業以外の事業も手がけており、漁師飯をテーマに酒田にオープンした飲食店は、漁師直送の海鮮が味わえると話題

山形県では女性としては初の長期研修生でありながらスムーズに地元になじむことができたのは、佐藤師匠のおかげだと志田さんはいいます。

「当初は、私が女性であることで、『周囲に心配かけて申し訳ない』という気持ちがありました。でも、ある時地元の漁師さんから聞いて知ったのですが、師匠がほかの漁師さん達に魚を釣り上げている私の写真を見せたりして、私の努力を伝えてくれていたそうなんです。私が皆になじめるようにという温かい配慮に、思わず胸が熱くなりました」

今ではすっかり地元漁師の皆さんと打ち解け、食事を共にするなど良好な関係を築いている志田さん。ベテラン漁師さんから、さまざまな話を聞くのが楽しみなのだそう。

「人間味だったり、人生経験だったり、漁師さんは世界で一番かっこいい。特に、過酷な海の上で長い時間を一緒に過ごしている師匠には強い絆を感じています。心の底から尊敬できる人がたくさんいるなんて、すごく幸せな人生だと思います」

「生きること」を応援してくれる。
酒田は、ずっと住み続けたい場所

住み慣れた故郷を離れ、新天地での暮らしに飛び込んだ志田さんを待っていたのは、予想以上に快適な暮らしだったそう。

「移住してみてびっくり、酒田にはたくさんの魅力がありますね。まず、山形は全市町村に温泉があるので、気軽に温泉に行けます。日本海に沈む夕日などの自然の風景も素晴らしいし、飲食店もちゃんとあるので食事も困りません。でも、なんといっても大きな魅力なのは、酒田の人の温かさですね。あまりに皆が親切なので思わず歴史を調べたのですが(笑)、酒田はかつて日本海を航行する「北前船」の寄港地として栄えたのだとか。そのような歴史があるためか、外部から来た人にとても親切なんです」

また、このような土地柄に加えて、山形県や「ふるさと山形移住・定住推進センター(くらすべ山形)」による移住支援や就業支援も、とても心強く感じているといいます。

「支援金や補助金の支給があるだけでなく、物件探しから何から丁寧にサポートしてくれて、『ここまでしてくれるの!?』と感激しました。さらに、引っ越し先には一年分のお米と味噌、醤油が送られてきて。今もそれを食べて暮らしています(笑)。」

ふるさと山形移住・定住推進センター
ふるさと山形移住・定住推進センター
移住コーディネーターの皆さん

ここでは人との距離がとても近く、『もし自分に何かあっても、絶対に誰かが助けてくれる』という安心感があります。実家から遊びに来た私の両親も、周囲の皆さんによくしていただいている私を見て、『涙が出るくらい安心した』と。酒田は、『生きている』ことを応援してくれる場所。『ずっとここで暮らしていきたい』と思える場所です。

師匠と志田さん
師匠は時に厳しく指導しますが、まるで親子のように仲の良い二人

酒田の漁を担う、一人前の漁師を目指して

全国的に漁師の数が減少し、高齢化が進む中、志田さんのような若い漁師の誕生には大きな期待が寄せられています。志田さんの目下の目標は、「独り立ちすること」。

「一年の研修を終えて漁師になるためには、総代会の16名のうち5名の方から認めていただく必要があります。せっかくこうして多くの方に面倒をみていただいているので、独り立ちして、一匹でも多くの魚を釣って来れる漁師になりたい。そのために、今はできる限り海に出て、どこで何が釣れるのかを勉強しています」

さらに志田さんは、SNSによる発信力を生かした漁業への貢献も考えているといいます。

「以前からインスタグラムでの発信を積極的に行ってきたのですが、大きい魚がとれると師匠が投稿用の写真をとってくれたり、情報発信に対して理解していただけているのが本当にありがたいです。寒ブリ漁の時に師匠が撮影した動画は、なんと550万回も再生されたんですよ(笑)。

今後は、例えば魚を釣る現場だけでなく、漁協に魚を卸すところまでを発信できたら、より多くの人が魚に興味を持ってくれるんじゃないか。さまざまな情報発信を通じて、魚の魅力を伝えられたらいいなと思っています」

釣りと魚をこよなく愛し、多くのフォロワーを持つ発信者でもある志田さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。

師匠が撮影した写真
100kg級の本マグロを釣り上げた時、師匠が撮影した写真。いい魚が上がると必ず撮影してくれるそう
師匠と志田さん
  • Interviewer

    Interviewer安達 日向子

  • Writer

    Writer渡辺 真理

  • Photographer

    Photographer佐藤 直生

山形県漁業経営・就業支援センター

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